標本の詳細サイト
哺乳類(綱)・束柱類(目)
Desmostylus hesperus
デスモスチルス ヘスペルス
     



 標本No.2019121402 咬柱配置図
 この標本は、デスモスチルス ヘスペルスの下顎左側の第4小臼歯と思われる。
 アメリカ、カリフォルニア州、Fresno County、Coalinga から産出した標本で、マトリックス
 が付着せず、歯冠単体のみの化石である。歯根は、ほとんど無く、歯冠との境目付近で折れて
 いる。歯根の付け根は、2股に分岐している。頬側面の歯冠側面が、えぐられるように摩滅し
 ている。咬合面全体は、頬側に傾斜している。上顎歯が頬側に滑り落ちるように咬合していた。
  新生代新第三紀中新世に堆積した、「Temblor Formation」という地層から産出した。
 2019年12月に、第28回東京ミネラルショー(池袋ショー)で、George Heslep Fossils
 から購入した標本である。標本の表面は、地表近くに露出していたのか、植物の根による溶食痕
 が白い跡として残る。 標本の大きさは、
   歯冠長=22.6mm、歯冠幅=17.3mm、歯冠高=20.0mm、歯根末端からの高さ=24.2mm、 
 歯根との境界が不明瞭で、歯冠高は不正確である。
 歯冠高/歯冠長が、0.88。(標本No.2018060104が、0.95。標本No.98121104が、0.43。) 
 歯冠高が歯冠長の割にやや高く、咬耗は、少し進んでいる。咬耗面もほぼ平らである。ただ、
 エナメル質が厚く、象牙質が点のように小さい。
 咬柱の配列や大きさから、子供の第4小臼歯の可能性が高い。
撮影面
歯冠表面 歯冠舌側面 歯冠頬側面 歯冠近心(前)面 歯冠遠心(後)面 歯根底面
所蔵画像
詳細
左上の大きい咬柱が、原錐(pro-
toconid)で、その右が前タロニ
ッド(anterior talonid)である。
中央から右に出ている咬柱は、
後錐(metaconid)で、その下の
咬柱が、内錐(entoconid)である。
 
右端の咬柱が、原錐(protoconid
)で、その左が、前タロニッド(an-
terior talonid)である。中央大き
い咬柱が、後錐(metaconid)で、
その左が、内錐(entoconid)であ
る。
 
左端の咬柱が、原錐(protoconid
)で、中央の凹んだひびに挟まれ
た咬柱が、次錐(hypoconid)であ
る。左端が後タロニッド(poster-
ior talonid)である。表面の細か
い筋は、シュレーゲルの条紋であ
る。
左端の咬柱が、後錐(metaconid
)で、その手前の咬柱が、前タロニ
ッド(anterior talonid)で、一
番手前が、原錐(protoconid)で
ある。
 
 
左端の咬柱が、後タロニッド(
posterior talonid)である。その
右の咬柱が、内錐(entoconid)で、
右端の咬柱が、後錐(metaconid)
である。
 
 
歯冠と歯根の境目付近で歯根が
折れているが、黒ずんだ輪郭で、
近心側に小さい丸い断面、遠心
側に大きい丸い断面が見られる。
通常、近心側の歯根は、細く短い
が、遠心側の歯根は太く長い。
さらに2分岐する場合もある。

 デスモスチルスの歯と摂食
 上の、歯冠頬側面の画像にあるような表面の凹みは、上顎の第4小臼歯の舌側端が、下顎
 の第4小臼歯の頬側に、ずれ落ちる時に削ったものと考える。デスモスチルスは、顎を左
 右上下に動かし、海岸にある植物(マングローブ、海藻)をかみ切り、すり潰すのにこの
 臼歯を使っていた。エナメル質が分厚いデスモスチルスの臼歯は、草食動物の特徴である。 
 シュレーゲルの条紋も、咬合面に対し約40度の角度で交差する。これらは、草食の哺乳
 動物の咀嚼機能の向上とエナメル質の強度を増すため、歯の形態を進化させた結果と言え
 る。
 デスモスチルスは、歯冠が高く、歯根は短い、多角形の咬柱が密に並び、植物を効率的に
 咀嚼でき、咬耗に耐えられるよう進化してきた。交換様式は、一生歯性、水平交換である。
 パレオパラドキシアは、歯冠が低く、歯根が長い、円形の咬柱がまばらに並び、歯帯が顕
 著、交換様式は、二生歯性、垂直交換である。雑食であったパレオパラドキシアとは異な
 り、デスモスチルスは、草食中心へと進化し、束柱類として最後まで存在した。


 デスモスチルスの成長と歯の変化
 下の図は、アメリカの「古脊椎動物学ジャーナルの36巻、2016-2号」に掲載の Gabriel-Philip 
  Santosらの「New data on the ontogeny and senescence of Desmostylus (Desmostylia, 
 Mammalia)」からの図を改編したもので、オリジナルな部分が多い。よって、間違っている
 ところもあるかもしれない。
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 デスモスチルスの成長に伴う、下顎の歯列図


 デスモスチルスの成長に伴う、上顎の歯列図



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