展示標本のサイト
哺乳綱・鯨目・ヒゲクジラ(亜目)類
manmmalia・Cetacea・Mysticeti
     



ヒゲクジラ類の耳骨(Ear bones)

         
標本データ 内側面 外側面 背側面 腹側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 部位図 備  考
標本No.95072801
ミンククジラの右鼓室胞
Balaenoptera sp.
  tympanic bulla

千葉県銚子市長崎鼻
鮮新世・500万年前
犬吠層群・名洗層

長さ:94.3mm、
幅:49.8mm、
厚さ:39.9mm、
重さ:167g
大潮で露出した海底の礫岩層か
ら掘り出したもので、一部割れ
てしまい接着。外唇の多くが割
れてから、摩滅が進んでいる。
内側面の総苞稜が明瞭である。
主稜の後端は、顕著に後方に突
出している。総苞稜と主稜の間
(中間溝)は凹んでいる。鼓室内
の鼓室胞頂は、膨らみが少なく、
前部にかけて幅が狭くなる。鼓
室胞頂の後部の溝は、かなり幅
広い。
       
標本データ 内側面 外側面 背側面 腹側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 部位図 備  考
標本No.2001060102
ヒゲクジラの右鼓室胞
Mysticeti
    tympanic bulla
アメリカ、フロリダ
中新世中期・2000万年前
地層名不明

長さ:88.8mm、
幅:45.6mm、
厚さ:38.5mm、
重さ:170g
2001年、第14回東京国際ミネラルフェ
アで、ミュージアムインポートよ
り購入。外唇の多くが割れてか
ら、摩滅が進んでいる。特に外唇
の前唇が欠けているが、鼓室内、
前部平坦部の幅は広い。鼓室胞頂
も前部にかけて広がり膨らむ。鼓
室胞頂の後部の溝の幅がかなり
狭い。腹側面の主稜と総苞稜が
かなり盛り上がり明瞭である。中
間溝は、幅が狭く、かなり凹んで
いる。
         
標本データ 内側面 外側面 背側面 腹側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 部位図 備  考
標本No.2019033101
ミンククジラの左鼓室胞
Balaenoptera sp.
    tympanic bulla
千葉県銚子市長崎鼻
鮮新世・500万年前
犬吠層群・名洗層

長さ:77.5mm、
幅:45.1mm、
厚さ:29.7mm、
重さ:101g
2019年、アオイ商会(株)より
購入。外唇の多くが割れてから、
摩滅が進んでいる。近心側がか
なり細くなっている。鼓室内、
内唇平坦部の幅は、前部に向か
い広がる。鼓室胞頂は、かなり
凹凸して、膨らみがない。硬い
骨膜部分は、盛り上がっている。
鼓室胞頂の後部の溝の幅がほぼ
ない。主稜は、かなり盛り上が
り明瞭である。不鮮明な総苞稜
で中間溝の凹みは、ほぼない。

ヒゲクジラの耳骨と聴覚
ヒゲクジラの耳骨、特に鼓室胞は、内側縁が大きくまくれ込んで厚くなる。こ
の部分が石のように硬く緻密で重い。昔からcetolith(鯨の石)の名前で呼ばれ
る部分である。一方、外側縁は薄く繊細で、脱落した場合、壊れやすい。化石と
して残りにくい部分である。ヒゲクジラの場合、背側唇の前後の突起で耳周骨
と骨結合をしている。ハクジラの場合、この部分が結合組織で結合をしている
ので弱く分離しやすい。大きな違いである。また、耳周骨もヒゲクジラとハク
ジラでは、より大きな違いがある。ヒゲクジラの場合、耳周骨の後突起が外頭
骨と鱗状骨の間に硬く骨結合しているため、鼓室胞と耳周骨は、頭蓋に結合し
ている。それに対し、ハクジラの場合、耳周骨は頭蓋と結合せず、鼓室胞の後
突起がかすかに頭蓋に結合している。頭蓋からぶら下がったおもりのようであ
る。クジラの耳は塞がっており、外耳から振動が伝わらず、さらに分厚く振動
しない鼓膜では伝わらない。ハクジラの場合、水中で音波は、鼓膜を通すこと
なく、下顎の付け根の脂肪組織を通って、中耳の鼓室胞・耳小骨を経て、内耳
の耳周骨に骨伝導により伝えている。この水中の音波の振動を(地震計の原理
のように)増幅するため、耳骨は分厚く肥大化した形状をもっている。耳小骨
は、鼓室胞から順に槌(ツチ)骨、キヌタ骨、アブミ骨とつながり、耳周骨の前
庭(卵円)窓に接合している。耳周骨の前庭窓から内部が内耳で、蝸牛殻内に前
庭窓から三半規管とそれに続く、蝸牛ラセン管と呼ばれる渦巻き管(内耳迷路)
があり、リンパ液で満たされ、その基底には、音・振動を感知する機能を持つラ
セン器(コルチ器)がある。耳小骨から蝸牛に伝わった振動は、ラセン器の有毛
細胞で電気信号に変わり、中枢神経・脳に伝わる。ヒゲクジラでは、採餌の対
象が小さいので、エコーロケーションの必要が無い。超音波の発信や収束させ
るメロンも必要ないので、頭蓋骨もハクジラと大きく異なり、鼓室胞や耳周骨
の形状も異なる。ヒゲクジラの属種によって、鼓室胞や耳周骨の形状が異なる。
鼓室胞や耳周骨は、ヒゲクジラ化石の種類を決定するための重要な部位となっ
ている。
上の図、中央左の枠内がヒゲクジラの耳骨、右の枠内がハクジラの耳骨である。
図中の記号は、tが鼓室胞、pが耳周骨、sがS状突起である。上部の画像は、
ハクジラの全身レントゲン画像。下部の画像は、ヒゲクジラの頭部のレント
ゲン画像であり、耳骨を黄色で示してある。

絶滅した歯のあるヒゲクジラ・エティオケタス
1990年、北海道足寄町茂螺湾の漸新世(2800万年前~2300万年前)の川上層
群茂螺湾(もらわん)層からクジラの頭から胸にかけての骨が関節した状態で発
見された。歯のあるヒゲクジラ、エティオケタス(Aetiocetus)類と判断され、
エティオケタス ポリデンタツス(Aetiocetus polydentatus)と命名された。
体長は、6mあったと思われ、アショロカズハヒゲクジラと呼んでいる。
2500万年前の最古のヒゲクジラであるエティオケタスは、真獣類の基本形で
ある44本の歯を持ち、また臼歯には副咬頭があるなどの異歯性を示していた。
茂螺湾層からは、アショロアやベヘモトプスなどの束柱類の化石も発見されて
いる。


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