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哺乳綱・鯨目・ハクジラ(亜目)類
manmmalia・Cetacea・Odontoceti
     



ハクジラ類の耳骨(Ear bones)

         
標本データ 腹側面 背側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 内側面 外側面 部位図 備  考
標本No.77032825
オーロフィセターの左槌骨
Aulophyseter sp.
     left malleus
埼玉県東松山市神戸
中新世中期・1500万年前
都幾川層群・神戸礫岩層

高さ:8.4mm、
幅:4.9mm、
厚さ:5.1mm、
重さ:0.19g
礫岩層を崩して篩がけし発見。
形状からハクジラの中耳にある
耳小骨の槌骨(malleus)と判断
する。槌骨頭の骨膜が剥がれ骨
質が見えている。耳周骨の槌骨
窩と関節する部分である。前突
起が折れている。他の部分は、
骨膜も綺麗に保存されている。
耳周骨や鼓室胞が発見されるこ
とが多いが、槌骨が発見される
ことは、ほとんど無い。
       
標本データ 腹側面 背側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 内側面 外側面 部位図 備  考
標本No.77032801
ケントリオドンの右耳周骨
Kentriodon sp. periotic
埼玉県東松山市神戸
中新世中期・1500万年前
都幾川層群・神戸礫岩層

長さ:26.6mm、
幅:12.7mm、
高さ:18.1mm、
重さ:5.2g
礫岩層を崩して篩がけし発見。
ハクジラの右耳周骨である。ハ
ンマーが当たり、蝸牛窓周辺部
分が壊れ、欠損している。全体
が波による摩滅を受けている。
腹側面に槌骨頭と関節していた
明瞭な槌骨窩が見られる。前突
起・後突起は、ややとがってい
る。アブミ骨筋窩の後端で蝸牛
殻のくびれが見られないのが特
徴である。前突起の前キールが
明瞭である。
         
標本データ 腹側面 背側面 近心(前)側面 遠心(後)側面 内側面 外側面 部位図 備  考
標本No.77062629
マッコウクジラの右耳周骨
Physeter sp. periotic
千葉県銚子市長崎鼻
鮮新世・500万年前
犬吠層群・名洗層

長さ:41.4mm、
幅:23.3mm、
高さ:28.4mm、
重さ:24.85g
海底の礫岩層から洗い出された
(掘り出された)もので、大潮で
露出した海底で発見。波による
摩滅が少ない。掘り出されたも
のかも。大きさから中大型のハ
クジラのものであることがわか
る。内耳道(孔)は長楕円で大き
い。横稜が発達。どの開口部も
大きい。前突起の前キールが明
瞭である。耳小骨筋窩や筋付着
突起が明瞭である。

ハクジラの耳骨と聴覚
パキケタスの化石が最初に発見されたとき、四足歩行の動物がクジラの祖先と考えられた
のは、その耳骨の形がクジラやイルカのものに似ていたことが主な根拠であった。耳骨と
は、ヒトでは耳小骨といい、鼓膜の内側にくっついている小さな骨のことで、空気の振動
である音を脳に伝える働きをしている。クジラの耳は塞がっており、外耳から振動が伝わ
らず、さらに分厚く振動しない鼓膜では伝わらない。水中で音波は、鼓膜を通すことなく、
下顎のオトガイ孔の脂肪組織を通って、中耳の鼓室胞・耳小骨を経て、内耳の耳周骨に骨
伝導により伝えている。この水中の音や超音波の振動を(地震計の原理のように)増幅する
ため、耳骨は分厚く肥大化した形状をもっていて、石のように硬く緻密で重い。耳小骨は、
鼓室胞から順に槌(ツチ)骨、キヌタ骨、アブミ骨とつながり、耳周骨の前庭(卵円)窓に接
合している。耳周骨の前庭窓から内部が内耳で、蝸牛殻内に前庭窓から三半規管とそれに
続く、蝸牛ラセン管と呼ばれる渦巻き管(内耳迷路)があり、リンパ液で満たされ、その基底
には、音・振動を感知する機能を持つラセン器(コルチ器)がある。耳小骨から蝸牛に伝わ
った振動は、ラセン器の有毛細胞で電気信号に変わり、中枢神経・脳に伝わる。ハクジラ
では、前頭部のメロンから発した超音波が、物体に当たり、跳ね返ってきて、左右の下顎
から左右の耳骨に伝わる。この時の左右の内耳の電気信号の違いで、物体までの距離・方
向・大きさなどを把握する。これを、エコーロケーションと呼ぶ。内耳の形状はクジラの
属種によって異なり、そのため耳周骨も、クジラの属種によって大きさや形状が異なる。
耳周骨は、クジラ化石の種類を決定するための重要な部位となっている。

絶滅したハクジラ、ケントリオドンの耳周骨
2008年、長野県下伊那郡阿南町恩沢の新木田層下部(1810万~1720万年前)
から左耳周骨、鼓室胞、耳小骨等が産出した。ケントリオドンの最初期の標本
とされた。
1940年代に岩手県二戸市馬部地の門ノ沢層上部(1630万~1590万年前)から
産出した右耳周骨。2019年からの調査で新種であることがわかる。ケントリオ
ドン スガワライ(Kentriodon sugawarai)と命名された。

ケントリオドンの耳小骨、右槌骨
1940年代に、岩手県二戸市馬部地の門ノ沢層上部(1630万年前
~1590万年前)から産出した右槌骨である。2019年からの調
査で新種であることがわかる。
ケントリオドン スガワライ(Kentriodon sugawarai)と命名
された。標本No.77032825 の都幾川層群・神戸礫岩層産の左
槌骨は、この門ノ沢層産標本と形状がよく似ている。しかし大
きさが、神戸礫岩層産の方が、1.19倍大きい。左槌骨の大きさ
から、単純に比例計算すると耳周骨の長さは、38.3mmとなる。
この大きさは、中型のハクジラのサイズである。体長が5m程度
あったことになる。

コマッコウ科オーロフィセター(Aulophyseter)?の左槌骨
標本No.77032825の都幾川層群・神戸礫岩層産の左槌骨は、門ノ沢層産標本
と形状がよく似ている。しかし大きさが、神戸礫岩層産の方が、1.19倍大き
い。同時に産出した神戸礫岩層産の耳周骨(標本No.77032801)は、門ノ沢
層産標本より小さい。別の個体のものかもしれない。単純に、比例計算すると
耳周骨の長さは、38.3mmとなる。この大きさのケントリオドンはいない。
神戸礫岩層からは、ケントリオドン(Kentriodon)とコマッコウ科の化石が
報告されている。もっと大きいものでは、コマッコウ科のオーロフィセター
(Aulophyseter)がいる。オーロフィセターは、この時代の北・西太平洋に
いたことは、明らかなので、この左槌骨は、オーロフィセターのものの可能性
が高い。オーロフィセターの体長は、約6mに達し、推定体重は1100kg。


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